しばらく見ていると、狭い車内は冷やかしの人でいっぱいになり、身動きがとれなくなった。たまに列車がゆれると、皆いっせいに「おっとっと」とバランスをとる、そこが普通の市(いち)と違うところだ。
母はどこだ、と見回すと、そこここでパカスカ物を買ってゆく。大根の浅漬けを味見しては親戚の分まで買い、父の好きな店の爆弾ドーナツを久々に見つけて喜んでは買うのだった。前日にいきなり誘い、「私は昔から わたけい にはよく乗ってたんだけどねぇ」とか言いながらついてきたわりには、すごいフィーバーぶりだ。
客車に戻りしばらくすると、ピンク色の背広を来たおじさんがやってきた。沿線とはちょっと離れた町の演歌歌手の方だ。朴訥なトークのあと、CDの営業にと、3曲歌っていかれた。
「いいん〜だぁよ〜♪」 コブシが車内に響き渡る。 |