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特集


ちしきの金曜日
 
「歩道橋」を鑑賞する

■歩道橋鑑賞ポイント

しょっぱなから歩道橋への思いを糧に筆の走るままに読者置いてけぼりで話を進めしまったが、ここで初心者にもわかりやすく、入門編として歩道橋鑑賞のポイントを解説していこうと思う。なにがどう入門編なんだか。

 

●床面テクスチャ


床面の素材とすすけ具合も重要な鑑賞ポイント。タイルがはがれちゃったりしていると、ぐっとくる。


鑑賞ポイントと言っても「連続鋼床版箱桁橋」とか工法などの話はおいておいて、もっとキャッチーな歩道橋の魅力を紹介しよう。「キャッチーな歩道橋の魅力」て。キャッチーの意味が分かってるのか。

人は歩道橋に登ると眼下の車の流れなどを見てしまうが、ベテラン鑑賞家は歩道橋の床面を見る。たぶん。

よく見れば思いのほか十人十色なテクスチャ。後に紹介する、マニアが眉をひそめる浮かれた歩道橋においてはファンシーなタイル装飾だったりするが、これらは質実剛健な好感の持てる素材使い。とくに使い込まれてはがれちゃったりしているとぐっとくる。

 

●おしゃれタイル


精一杯感がどことなく中学生のおしゃれを髣髴とさせるおしゃれタイル。ちょっと背伸び。無難と言えるのかどうか意見が分かれそうなモティーフ選定がキラリと光る。


大規模な歩道橋の床面をためす眺めつしていると、しばしば見かけるのがこのおしゃれタイルだ。殺風景な歩道橋空間に温かみを添えようとせいいっぱいの背伸びが、これ。すてきだ。

動物や花など無難なはずのモティーフ選定だが、仕上がり具合のこのゆるさはどうだ。前述のデコ電も不器用な仕上がりだとちょっとほほえましく映るだろう。映らないか。というか、この喩えはやめるべきか。

 

●壁と柵と


壁や柵など立面方向への気配りも歩道橋鑑賞の際には忘れてはならない


足元ばかりを見ていてはならないのは、人生も歩道橋鑑賞も同じだ。写真は色、ツヤ、素材感、清潔感などいずれにおいても名品と呼べるものをそれえてみた。無骨なボルト締めにぐっとくるもよし、鋼材そのままの雰囲気を漂わせた素材の味を活かしたディテールに唸るもよし。個人的には右下の視線をさえぎる窓部が途中で切れている様にぐっとくるものがある。ものすごく共感しづらいポイントですまん。

 

●階段下フェンス


階段下には、ゴミや放置自転車、寝床にする方々への対策がフェンスという形でうかがえる


かたや思いっきり下のすみっこに目を向けてみるのもまた一興。さまざまな視点での鑑賞を許容するのも歩道橋の魅力のひとつ。先にもすこし触れたが、歩道橋の階段下には放置自転車がよく置かれるが、そのほかにもゴミや一般的にホームレスと呼ばれる方々を惹きつける魔力がある。

そこでフェンスの登場。歩道橋素人が見落としづらい鑑賞ポイントだ。「歩道橋の造形は今ひとつですが、足元のフェンスコーデはなかなかですね」なんてさりげなく口にすると、その世界では一目おかれるようになるかもしれない。なんだそれ。


別の階段下のシーナリー。大樹の陰で森の生命がはぐくまれるように、母なる歩道橋が都市の生態系を見つめる。

 

●階段の曲がり具合


個人的に非常にぐっとくるのがこの階段のカービングだ。ていうかさっきからぜんぶ「個人的」なんですが。


狭い歩道橋になるべくゆるい勾配で階段を設置しようとすると、おのずと折り返したり曲がったりすることになる。個人的にはこの階段がしなを作るさまにぐっとくるものを感じる。左は途中までまっすぐだったものが最後の最後でちょっと曲がっている。そのちょっと曲がるところにさりげないエロチシズムを感じる。うそ。感じません。言い過ぎた。
右は設置面積最小に挑んだ名作、螺旋階段。自転車では登れないは、目が回るはで一般的にはあまり評判がよろしくないようだが、これはこれでなかなか愛らしい。

狭く、曲がりくねったアプローチを採用した階段。勾配も急でとってもバリアフル。この使いづらさが歩道橋の醍醐味。

 

●そのほかの各種ディテール


歩道橋ならではの体験空間。道路標識の裏、間近にある信号機、見慣れない巨大なボルト。


ここまでついてきたあなた。そんなあなたには、もはや思いのままに歩道橋の鑑賞ポイントを見つけて欲しい。

でかい道路標識の裏側を見れるのも歩道橋ならではだ。ターゲット分析不在の張り紙、「照らすぞ」という心意気だけのむき出し電照、意味は分からないが心躍る歩道橋の塗装に関する表示。ここにはミニマルなんだかデコラティブなんだかよく分からないデザイン空間があなたを待っている。



 

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