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特集


ちしきの金曜日
 
「ラブホテル」を鑑賞する

■お城タイプ

そんなわけで、ほのかな期待を胸に妙齢の女性とのラブホテル巡りが始まった。

ラブホテルの建築様式の代表と言えば、まずは前ページで紹介したぼくの家の近所にあるような西洋の城をモティーフとしたものだろう。同行の女性に対する礼儀も鑑み、まずはとっつきやすそうなこのお城タイプを鑑賞だ。ラブホ鑑賞におけるロイヤルなおもてなしとも言えるだろう。


様式に対するこだわり、規模ともにかなりの充実ぶり。好調な滑り出し。


まちなかに唐突にこんなものが建っているのだから、日本とは面白い国だ。しかもそれが性の営みのための場所を提供するサービスなのだ。その恩恵には全くあずかれていないが、日本に生まれて良かったと思う。

同行の女性も「これはすごいねえ」と感嘆の声を上げる。まずまずの滑り出しである。このままどんどんぬるぬると滑り出して行こうではないか。

それにしてもこのお城の充実ぶりはどうだろう。単なる「城趣味」を超えて真摯に城に向き合う姿勢が感じられる。これにくらべると前ページの家の近所のものがかなりシンボル化された城であることに気づかされる。

とか言っても、これがほんとに実際のお城の様式に忠実かどうかは知らない。「全然違うよ」という専門家の意見もあるかもしれないが、そんなの映画化されたときに「原作小説と違う」って騒ぐのと同じだ、と乱暴な言い訳をしておこう。


おそらく日本で一番有名だったラブホテル「目黒エンペラー」(現在は別の名前になっている)。お城モティーフを世に広めたラブホテルの代名詞的存在。


ところでなんでラブホテルと言えばお城なのか。おそらく、1973年に開業し当時マスコミで大々的に取り上げられた、東京は目黒のラブホテル「目黒エンペラー」がお城タイプだったからではないかと思う。

セックスを「非日常的」なエンターテイメントとして扱った最初の例と言ってもいいこの目黒エンペラー。今日ぼくらがふつうだと思っているそういうラブホテルの演出性の起源はおそらくこの目黒エンペラーが開発したか、すくなくとも世に知らしめたものだろう。そのインパクト故に以降、演出の様式として「お城」が全国に広く広まることになったのだと予想する。

というか、運営主体も代わり外壁の色も当時とは変わっているらしいが、今でも現役で存在することにすこし驚いた。これまでラブホテルに全く縁がなく、おそらくこれからも縁がないであろうぼくからもエールを送りたい。ゆくゆくは世界遺産に。


お城モティーフ世界の広がりを感じさせる物件。軽井沢的お城解釈と言えばいいだろうか。なんとなく。軽井沢行ったことないけど。


これなんかは、冷静に見るとすでにお城たる要素はどこにもないのだが、ラブホテルだというだけでお城として認識してしまう。ラブホテル界におけるお城様式の慣性を感じる。というか、ラブホテルを前にふつう人は「冷静に」なったりしない。

「やっぱりふつうの外観のホテルよりこういうお城の形してる方が楽しげで、ちょっと入ってみようかって気になるよね?」
「うーん、ならない」

なんだよ、ならないのかよ。だめじゃんお城。うまいこと日も暮れてきたので水を向けてみたが返り討ちだ。

 

■自由の女神

「そういえば自由の女神が立ってるラブホテルって良くあるよね」
「あー、あるねー。吉祥寺にあるね」
「行ってみようか」

女性を相手にラブホテルに「行ってみようか」とこんなナチュラルに言う日が来るとは思わなかった。


東京は吉祥寺の自由の女神を頂いたラブホテル。その名も「ニューヨーク」だが、建築自体にニューヨークらしいところはみじんもない。


おそらくここ吉祥寺に限らず全国の至る所にあるであろう、この自由の女神ラブホテル。「自由」の一言が今日も2人を誘う。燃やせ、たいまつ。

しかしどうだろう、この建物。女神建設で力尽きたか、やけにあっさりとした建築。自由の女神で惹きつけられてもこれでは入場する気にならないのではないか。

「うーん、汚いのはいやだけど、あんまり建築の造形と入る入らないは関係ないんじゃないかなー」

そうなのか。トンチの効いた様式に惹かれている時点でラブホテル経験値の低さがあらわになってしまったようだ。


神奈川にも自由の女神なラブホテルが。


ちなみにこのホテルが建っているのは「ゴム通り」という道路沿い。ラブホテルにゴム。自由を謳いつつもそこに確かなメッセージを感じる。



 

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