最高の渡り心地
案内されたとおりに32階でエレベーターを降り、渡り廊下へとつながる扉をあけた。
うん、すばらしい。
両面ガラス張りで開放感にあふれ、暖かい春の日差しが差し込んでいる。
窓から外を見下ろすと、ちょうど盛りの桜が隅田川沿いに小さく小さく咲いている。
遠くに目をやると東京タワーや品川の高層ビル群が見渡せる。この日はあいにく薄曇りだったが、晴れた日には富士山も望むことができるだろう。
視線の高さが他の渡り廊下に比べて格段に高く、渡っていると平衡感覚がゆらゆらと歪む。
この「足の下には何もない感」がたまらない。
小さくジャンプして、疑似空中浮揚体験を味わう。
タダでこれだけの眺望とスリルが楽しめる、なんとすてきな渡り廊下なのだろう。
伸び縮みするらしい
渡り廊下の入り口に、「伸び縮みするブリッジのしくみ」という説明書きがあった。
それには
「このブリッジは、大きな地震で建物が揺れる時にも、安全に通行できるしくみとなっています。
ブリッジの全体の骨組みは、片方を軸で、片方を車輪で、両側の建物につながれており、建物の揺れに合わせて動くことが可能です。
床は骨組みの中のレールに載っており、自由に伸び縮みできるよう分割された上、パンタグラフでつながれているため、建物の大きな揺れは各々の床で均等に分割され、小さな動きとなります。」
とある。
なるほど、確かに地震の際は高さも構造も異なる二つの建物、揺れ方にも差がある。それを固定式の渡り廊下でつないでしまっては、揺れを吸収できずに渡り廊下の真ん中からバキッとなってしまうだろう(考えただけでも恐ろしい)。
それを防ぐためにこんなハイテクが使用されているのだろうけれど、それじゃあなんでそこまでして渡り廊下を作るのだろうか。
それはたぶんきっと、建築家の人も渡り廊下が好きだったのではないだろうか。
もしボクがこんな二つ並んだ超高層ビルの設計を任されたなら、渡り廊下を渡さずにはいられないだろう。
その気持ちはよくわかる。人は渡り廊下を渡したがる生き物なのだ。
好きが高じて思わず渡り廊下を渡してしまった、そうに違いない。(それと、ビル火災の際の避難路の確保のためとか。)
いずれにせよ、好きこそものの上手なれ、きわめてクオリティの高い渡り廊下に仕上がっている。
やはり、日本を代表する渡り廊下であることは間違いない。 |