そろそろ遺産を
名物の焼きそばに満足したが、まだぜんぜん遺産をめぐっていないことに気がついた。そろそろ行かなければ。 駅前からタクシーに乗って、金山城址に行ってもらうようお願いした。 すると、運転手さんが首をかしげる。 「金山城址ですか?いや、はじめて行くから。」 地元出身の運転手さんによると、若いころにドライブで金山城址に行ったことはあるけど、仕事としてお客さんを乗せて行くのははじめてだというのだ。 たしかに城跡はあるけど、お客さん物好きだねといわれてしまった。
車で20分くらいだろうか(歩かなくてよかった)、小高い山の上に金山城址はあった。 数年前に整備されて、今は公園になっている。 わずか二百数十メートルの山なのだけれど、市街地よりはやや涼しい。 けれども、城址まではかなり急な階段を登らなければならず、ちょっとしたハイキングのようで、汗だくになってしまった。
室町時代の城らしい
金山城というのは室町時代に造られた城だということだ。 その石垣の一部などが歴史資料として保存されている。 これは確かに遺産だ。 もし太田遺産選定委員会のようなものがあれば、まちがいなく第一候補としてここを取り上げるだろう。 公園の頂上には物見台があり、太田市を一望できる。 この日はざんねんながら暑さのせいで霞がかかっていたが、晴れた日ならば、遠くはかなり向こうまで見渡せるだろう
呑龍さまのほうがいいよ
見物を終え、帰る手段がないので待っていてもらったタクシーに戻ると運転手さんが、 「どう?面白かった?」 と聞いた。 たしかに、僕は城に関しては興味が浅く、特別面白いものではなかった。 「太田の歴史だったら、呑龍さまのほうがいいんじゃない?」 なんでも、この山を下ったところに大光院という、市民から「呑龍(どんりゅう)さま」と親しまれているお寺があるというのだ。 まさにそういう遺産を僕は探しているのだと思い、さっそくそこへ送ってもらって、タクシーを降りた。
子育て呑龍
呑龍さまというのはこのお寺を開いた人で、当時間引きされそうになった子供をたくさん引き取って育てたことから、このお寺が子育て呑龍さまと呼ばれるようになったとのことで、地域の人たちから愛されているのもうなづける。
久しぶりにお寺に来たので、お線香買ってお供えし、おみくじを引くなどという、いかにも観光的なことをしてみたが、やはり観光地にきたら積極的に観光的なことをするべきだと感じた。 ようするに楽しかったのだ。 この呑龍さまも、太田遺産としては欠かすことのできない場所だと思う。