元は通用するのか?
食事を終え、「元」を握りしめてレジに向かった。
さっきまで給仕してくれていた店員さんはどっかに行ってしまったようだ。代わりに若い女の子がレジに立っている。さっきの店員さんと仲良くなっていても、結局は無駄だったかもしれない。
僕の「元」の運命はこの女の子が握っている。
困った事にレジの女の子は日本語が分からないようだった。 無言で「元」を見つめている。
「出来れば元で会計したいのですが…」
何度か日本語でそう告げると、ようやく僕の意図が伝わったらしく、何やら中国語で叫びながら2階に駆け上がっていった。
2階から、料理担当の人が降りて来た。
「元でお会計を…」
と告げると、料理担当の人はニコニコしながら僕の「元」をかざし始めた。
本物は毛沢東と金額表示の透かしがあるらしい。 なるほど。
いや、感心している場合じゃない。偽札だと思われてる。
3人で透かしを確認していると、更に別の店員さんが降りてきた。 どうやら店長さんらしい。
女の子が僕の意図を中国語で告げている。
僕の意図を理解してくれた店長さんは、片言の日本語で、「1万円、何元?」と聞いてきた。1万円分を何元の計算で換金したのか、確認したいという。
1元15円の計算で換金したので、携帯の計算機ツールで10,000円を15円で割ってみた。結果、666.6666元。
携帯の画面を見せると、店長さんは大きく頷き女の子に中国語で指示を出した。 どうやら「元」を受け取ってくれる感じだ。
女の子が計算をしている。
結果、80元で精算してもらえる事になった。若干高めではあるが、円に換金する手間を考えれば良心的な価格設定である。
やった。 中華街で「元」を使う事に成功した。
「謝謝」と何度もお礼をしてお店を出ようとして振り返ると、料理担当の人がまだ僕の「元」をかざしていた。