どうしてもぴったり重ならない
場所を変えてしばらく待つとまた飛行機がやってきた。さっきよりも左よりの進路をとっているように見える。
写真にしてしまうと伝わりにくいのが悔しいんだけど、この位置でこの大きさの飛行機を見るとかなりの迫力なのだ。羽についているマークとか細かい部品まで見える。機内で「ぽーん」って音がしてシートベルト着用のサインが点いているのまで手に取るようにわかる(気がする)。
飛行機はここからぐっと旋回して、やはり僕のいる真上あたりを通過しそうなラインを取り始めた。果たして太陽は遮ってくれるのだろうか。
来るか、日食。
さっきよりも遠くなってしまった。
この後も影の通った場所を転々としながら、しばらく飛行機の通り過ぎるのを見ていたのだが、ぴったり皆既日食になる場所に居合わせることはとうとうできなかった。
しかし収穫もあった。何機も眺めていると、飛行機の航路はまったく同じではないものの、おおよそ一定の範囲内に収まっていることがわかったのだ。おそらく基本のルートがあり、あとは風向きや風速によってパイロットが微調整しているのだろう。
太陽の位置も刻々と変わる
飛行機が飛んで来るのを見ながら、その影の行方に合わせて位置取りができたらどんなに楽だろうと思う。砂漠みたいな広い場所でチーターみたいに速く自由に走られるならばそれも可能かもしれない。しかし住宅地で、僕は生身の人間なのだ。すごいスピードで通り過ぎる影を追いながら中に入ることなんて不可能。
これまでの方法を続け、場所を転々としながら何機もの飛行機をやりすごしているうちに、さらなる変動要因が現れた。
日が傾いてきたのだ。
太陽が西に傾くにつれ、飛行機が地上に落とす影の軌跡は徐々に東へとずれていくのだ。飛行機日食を見る場合も本当の日食同様、太陽の位置、飛行機の位置など様々なファクターが複雑に影響しあうということがわかる。その結果、暗闇は心の中にのみ訪れる。
これはもう無理かもしれないですね。
飛行機日食、難しい。
鉄道のように決まった進路を進むのならばいくら動いていてもその影の通過する場所を予測することは簡単だろう。しかし飛行機は自由なのだ。パイロットの判断や天候条件で上下左右に位置を変える。
これはでは本当の日食よりも観測しにくいではないか。30年くらい追い続けないと見られないのかもしれない。
どうしよう。