慰めとはなんなのか
ここまでの経過ですっかり自信を失ないトボトボ歩いていると、 向こうでタンチョウがバタバタと騒いでいるのが見えた。
そんなキャプションを付けてみても当然全部ウソなわけで、 僕は飼育員でもなければタンチョウが僕を見てなにか反応を示したりしない。 相変わらずタンチョウは騒ぎつづけている。
なぜ騒ぐのかは分からない。なぜなら飼育員じゃないから。しょせん飼育員っぽい格好をしてるだけだから。
そんな風に腐りながらタンチョウを見ていると、安藤さんが「やりましたね、小柳さんが来たから騒ぎましたよ」 とあからさまなウソを付いた。
ダイレクト勝負
いままでは檻越しで見たり見られたりしていた関係だったが、 動物と直接ふれあえる場所なら檻越しとはまったく違う成果が現れるかもしれない。 一縷の望を胸にヤギや羊と直接触れ合えるこども動物園に向かった。
ヤギ来る
ヤギ来てるヤギ来てるヤギ来てるヤギ来てる。エサもないのにヤギすごい来てる。
写真だと伝わりにくいがこのヤギの食いつき様はかなりのものだった。エサも何も持ってないのにどんどん顔を近づけてくる。このままだと唇を奪われる!と慌てて下がって写真ぐらいの距離だ。
もちろん服の中に草を詰め込むとかそういうズルはしてない。これはどう考えても飼育員効果ではないか。
試しに飼育員姿でも何でもない安藤さんにも同じヤギに触れあってもらった。
撫でるという反則技を使ってもイヤがられてる。 飼育員効果が実証された瞬間だ。飼育員の格好をしてヤギにモテた。 ニセ飼育員になって本当によかった。相手がヤギでもなんでもうれしい。
実際は安藤さんでもそんなイヤがってたように見えなかったんですが、 僕の幸せのためにここはそういうことにしておいてください。
モテモテではない
この調子に乗って他のヤギにもアタックしてみたが 全然ダメだった。
あのヤギ以外のヤギは総じて無反応。 「モテ」はしたが「モテモテ」ではなかった。ここら辺は個体差かもしれない。 でもそれでもいい。
全てのヤギにモテたいなんてそんな贅沢、恐ろしくて言えませんから。
最も見てたのは人間
園内でなによりも一番僕を見ていたのは周りのお客さんである。確かに横でいきなり飼育員のフリをした男が一緒に見ていたら驚くだろう。
実は動物たちに飼育員と認められなくても、子供たちから動物について質問されたり 本物の飼育員からサボるなと怒られたりすれば勝ちだと思っていた。
しかし残念ながら単に奇異の目で見られてただけでした。