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フェティッシュの火曜日
 
おばあちゃんと作る箱寿司と五平餅

この周りをみんなで囲んで食べた

七輪の上でタレを乗せて焼いていく。いいにおいが!

串からボタボタ落ちてしまった分は網に乗せた。不思議と網に載せなかったものの方がおいしかった

外は暑いんだもん

この日の名古屋市内の最高気温は26.2℃。温度だけ見るとそう暑くはない気もするが、外に立っていると強い日差しでくらくらするような天気だった。

それで、最初は縁側に用意していた角型七輪が居間に持ち込まれたのだ。祖母・叔母・叔父、ともにまるで普通の様子。だ、大丈夫なんですかね、これ?!

窓は全開にして十分に換気しながら焼いていった。自己責任でやっておりますので、どうかよろしくお願いします。

焼きながら叔父が懐かしそうにいうには、昔は囲炉裏でよく五平餅を焼いたそうだ。

「囲炉裏に串を立てて焼くんだよな。そうすると、ずるずるっと五平餅が落ちちゃうんだよ。灰が付いてね。灰をふーふー吹き飛ばしながら食べたよなあ」

はっ、そうか、囲炉裏があったころを思うと居間で火が起こってるってそんなに慌てるような事態じゃないのか。

いや、でもそういうことじゃないだろう。

一人5合食べられる味

居間でめらめら燃える炭を見てわあわあ言い、焼けるいいにおいにまた騒ぎ、焼きながら炭の中に落ちる団子をきゃあきゃあ拾い上げ、散々騒いで、そうするうちに徐々に焼けていく。

時間はまだ11時前なのだが、たまらず焼ける分から食べ始めた。

全員無言になった。

おいしい!

なんだろう、なんだろうこれは。ご飯をつぶして味噌を塗って焼いたものだとは思えない。

そりゃ、フレッシュな山椒やピーナツのコクが美味しいというのは絶対だが、それ以上の、炭水化物の底力というか、プリミティブな美味しさ、ありがたさがある。

実はこの日、団子にしたご飯は9合あった。もうちょっとで1升という、全盛期のうちの実家みたいな量だ(私は5人兄弟の家で育ちました)。

そんなに量を食べないだろうおばあちゃんに、叔父夫妻と私たち家族というメンバーでこの量はどういうことだろうと思っていたのだが、そうか、そういうことか。

9合、いけるぞと思った。そして実際、食べきった。

先ほど開いた岐阜の郷土料理の本には続けてこうあった。

五平五合といって、一人五合くらい食べてしまうといわれるほどおいしく、たくさん食べられる。

ピーナツ味噌バージョンと晴天のもと記念撮影。これが3串くらいペロリなんですよ。すごい!
   
山椒味噌を塗ったもの。あまじょっぱい、けど爽やかという初めての味。おいしい……

多分3合分くらい食べた頃。まだまだ余裕

30年ぶりだったそうです

「そんなに量を食べそうにないおばあちゃんに、叔父夫妻と私たち家族というメンバー」

先ほどそう書いたが、おばあちゃん、食べた。結構食べた。

一番に焼けた五平餅はおそなえとしてなくなったおじいちゃんの仏前に供えられたのだけど、最後の最後にそれを食べたのはおばあちゃんだ。

確かに一番食べたのは叔父だったが(五平餅に対する執念というものを感じる食べっぷりであった)、でもおばあちゃんもご飯9合の消費には完全に一役買っていた。

ふと叔母がいった

「私がお嫁に来てすぐの頃、五平餅いただきましたねえ」

そこからいろいろと話を聞いてみると、どうも五平餅はそれ以来今回が初めてらしい。叔母がお嫁に来たというと、もう30年以上前のことだ。

甲子園的に言うと30年(以上ぶり)○回目の出場だったわけである。うまく甲子園的に言えなかったが、とにかくかなりの久しぶりで、甲子園だったら地元はバス借り切って応援団を結成するくらいの盛り上がりだろう。

初めて五平餅を食べた私たち家族はその美味しさに驚くことしきりだったのだが、おばあちゃんや叔父夫妻には久しぶりに食べた喜びが大きかったようだった。

食べ終わったら、まだ11時ちょっとすぎだった。少し休んでおばあちゃんの故郷に行こう。

箱寿司のとき同様、完璧に機材周りがそろっている。火箸
そして、タレを塗るハケ。「これ不便だから今日は100円ショップで買ったやつを使お」ということで使わなかった

うちでいうところの刺身か

私にはいわゆるふるさとがないので郷土料理には縁がないと思っていたが、もしかしたら、そうでもないかもしれない。

親戚が集まると、女性が働いて、子どもが駆け回って、おじさんがガハハと笑って、若い男は飲まされる。そんなときに出される“例のもの”という食べ物なら、私にも覚えがあるのだ。

母の実家が魚屋をやっていたので、親戚が集まると出たのはお刺身の盛り合わせで、子どもの頃は白いご飯と一緒にマグロの赤身をたくさん食べた(確かトロは盛り込まれてなかった)。

箱寿司や五平餅を食べながら、そのお刺身のことを思い出したのだ。私はツマもよく食べた。お刺身は郷土料理というわけじゃないけど、私にとってはお刺身がそういう食べ物なんじゃないか。

そう思いながら、やっぱり独特の土地のにおいがする料理には憧れるのでした。また何か食べさせてもらおう!

あと、翌日私たちがおばあちゃんの家を後にする頃もまだ、部屋はけむかった。

おばちゃんが世話している庭

参考図書
「聞き書 岐阜の食事」農文協
「聞き書 愛知の食事」農文協
「聞き書 ふるさとの家庭料理 第1巻 すし なれずし」農文協


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