世界最大の両生類、オオサンショウウオ。かつての和名は「ハンザキ」といい、今でも中国地方の山間部ではそう呼んでいるという。ハンザキ…まるで妖怪の名前みたいだが、あのユーモラスな姿とあいまって、何か郷愁をそそるものがある。
さて岡山県は真庭市、湯原温泉。ここで年に一度、8月8日に「はんざき祭り」が開かれる、ということを昨年知った。
ハンザキの祭り…いったいどんなんだ。しかも巨大なハンザキの山車が登場するらしいぞ。何だそれは。以前ハンザキみたいなハンバーグを作ったハンザキ好きの私としては、これは絶対行かねばならないと誓った。この日をどんなに待ったことか。
(乙幡 啓子)
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確かに、この日を1年待っていた。がしかし、いざ行くという段階になって「あー、今年は、やめよっかなー…」なんて怠惰な考えも沸いてきてしまうのだった。
なぜか。それはここ東京からの交通の便である。そして結局同行者がなく、ひとりで行ったのです。祭りに。それは余談として。
順を追って説明しよう。 まず岡山に向かう。それはいい。新幹線なら3時間ちょっとだ。今回は都合上、寝台列車を使ったので8時間半かけているが、寝台に乗れて楽しい、苦になんてならない。と、このときは思う。
乗客の数は、半分に満たないくらい。いったいこの中の何人が「ハンザキ同好の士」なんだろう。ハンザキ好きは見た目ではわからないものだ。
岡山からずっと乗ってきた女の子3人組、彼女らも終点勝山まで往復のチケットを買って乗ってきたので「お、もしやハンザキファンですかい?」と親近感が沸きかけていたのだが、運転手さんに「このバスで蒜山まで行きますか?」と聞いていた。蒜山とは、湯原温泉の先にある高原リゾートである。ハンザキ関係者では全くなかった。
が、事前に調べたところ、岡山からのバスはどうやら1日4本こっきり。勝山から湯原温泉への道のりも、土地鑑がなくペーパードライバーなために漠然としたまま計画せねばならず、不安だったのだ。
バスのチケットの買い方やコミュニティバスの降り方とか、こまごまとしたブラックボックスもあったが、なんとかたどり着いた。ひさびさに不安だらけの行程が、逆に楽しく思えるが、こんな風に遠くから来る観客って果たしているのかどうか。
たどり着いても、街の様子は何だか妙だ。