見えてきた
21時。作業開始から4時間。毛糸も3玉目にはいる。だんだん帽子のようになってきた。見えてきた。翼よ、あれがパリの灯だ。
大きなニットキャップがいま完成しようとしている。帽子にまつわる苦い思い出が走馬灯のように駆けめぐる。
・僕のサイズの帽子は世の中に存在しないといった原宿のショップ
・僕の頭を見るなり、「うーん、ちょっとないですねえ」と言ったアメ横の帽子店
・この帽子が入らなかったやつはいない、という帽子があっさり入らなかったこと。
もうすぐ完成するニットキャップがそれらをすべて洗い流してくれるさ。
最後の処理を慎重に
22時。作業開始から5時間。3玉目を編み終えた。指は痛く、肩もこっているがいまはそれどころではない。
最後の編み糸の処理を慎重に行う。正直に言うと編み物マスターの印田さんに手伝ってもらった。
ニットキャップを作ると言い出したときにほとんどの人から無理だといわれた。でもできた。信じればできる。
いまの僕は体育の教師みたいなことを口走っている。数時間前、半泣きで逃げていたのが嘘のようだ。
ぶかぶかだよ!
かぶってみる。
ぶかぶかだ!もういちど言おう、ぶかぶかだ!
帽子をかぶってそんなセリフ言ったことがない。夢のぶかぶか。
「いやあ、こまったなあ。ぶかぶかで」
大きな帽子と同時に何物にも代えがたい達成感を得ることができた。
僕の頭が大きくなかったら帽子つくりにもチャレンジしなかっただろうし、この達成感を味わうこともなかっただろう。ありがとう!僕の大きな頭。
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