科学的裏付けがある御利益

「まー、東京のにーちゃんもそこ座りーな。コーシーでも飲んでいき、コーシー」

この調子で一億ドーンの計画に参加させられたらタマラナイな……とは思いつつも、このナゾだらけの幸福神社について聞き出すいいチャンスだと思い、いわれるがままにソファに座ることに。

「（お弟子さんに）おう、このにーちゃんにコーシー入れたってや。ウチのコーシーは美味いでぇ〜、十三に○○コーシーって店あるやろ、そこでコーシーの豆買うてるからな。あそこのコーシーがいっちゃん美味いんや！　水だって特別のスッペシャルなん使うとるからな」

ドトーのごとくしゃべりまくるおっちゃん。どうなることやら、いきなり心配……。

「ところでここって神社……なんですよね？」
「おー、神社な。オモロイやろ、あれ。あっちはワシの遊びやな。専門は物理学やから！　放射線治療の研究しとるんや！」

うーんと、うーんと、話がいきなりよく分からない方向になったぞ。物理学？　放射線治療!?　ますますナゾは深まるばかり。

「ウチはな、ただの神社と違うんや。フツーの神社は賽銭入れて拝んでしまいやろ？　そんなもんなーんも効果ないやん」
「そこは信じるものは……的なことなんじゃないんですか」
「いやいや、そんなん効果あるわけないで。その点、ウチの神社はちゃんと効果あるのが科学的に分かっとるからな！」
「は、はあ……」

なんでもこのおっちゃん、本業は放射線治療の研究者なんだそうで、幸福神社に置かれている像たちにはおっちゃんが厳選した放射線治療等の効果がある石が埋め込まれているため、触ることによって御利益……というか治療効果があるんだそうな。

しかもその放射線治療の研究も日曜研究家などというレベルではなく、その手の学会の会長を務めたり各地で講演会を行ったりと、かなり本気で権威ある研究者らしいのだ。（帰ってから調べたところ、ホントにそうみたい）

さっきの「一億ドーン」の話も、今やってる研究に国から予算をどうやって出させるか、という打ち合わせだったんだとか……話がデカイ！

「あっちにあった木彫りのワシ見たか？　アレな、講演に行った先にあったのを見て気に入って『これくれ』っていって送ってもらったんやけどな、思った以上にデカくてなぁー。入口からも裏口からも入れられなくて、一回入口をバラして入れたんよ。えらい金かかったな。こんなことならもらわなきゃよかったわー、ガッハッハッハ！」

まあ、こんな高価そうなワシを気軽に「くれ」っていっちゃえるくらいエライ先生だということは分かった。

しかし、そんなエライ（はずの）先生がどーしてこんな珍奇極まりない神社を作ってしまったんだろうか。

「ここはワシの研究と実践の場やね。二階には研究室があってそこで色んな研究をしとるんやけど、研究の成果を下の神社で誰にでも体験できるようにしとるんや」

なんかイキオイで「なるほどー」っていいそうになったけど、いやいや、研究の成果を体験してもらうにしても別に神社にすることはなかったんじゃ……。

「まあ、こういう風にしとけば面白がって来る人もおるからな」

……確かに。

ということでこの幸福神社、神道やら宗教やらとはまったく関係のない神社ということなのだ。

余談ながら、神社の片隅に置かれていたこのナゾの器具。これも放射線治療に使うなにかなのかと思いきや。

「あ、それはワシの腹筋のヤツや。最近、運動不足やさかいな！」

ホントに自宅兼、神社兼、研究室なんだな……。

ところで最後に一応、これだけは聞いておかなければ。ここってもともとは貧乏神神社って名前だったの？

「最初はみんなの家に取り付いている貧乏神を全部引き受ける神社ってオモロイと思ったんやけどな。周りの人たちから『アンタ金持っとるくせに貧乏神神社はないやろ』っていわれて、それで幸福を呼ぶ幸福神社って名前に変えたんや」

ものすごくイイこといってる気もするんだけど、やっぱり「世間に還元」がなにも「神社を作ること」じゃなくてもよかったんじゃ……とは思う。