ニッパー君に泣けるか
渋谷を歩いていて、ニッパー君を見つけてしまった。
私はニッパー君に弱い。ご存知、日本ビクターのトレードマークにも使われている、蓄音機に耳を傾けるあの犬である。
元は、英国の画家によって描かれた「His Master's Voice」という絵の中の犬。画家の亡くなった兄がニッパー君の元の飼い主だったのだが、ある日生前の兄の声を蓄音機で流したところ、ニッパー君はずっと耳を傾けていたという。おなじみの逸話だ。私はこの逸話に、情けないほど弱い。
いきなりだが、私は 「ご主人のことをじっと待つ犬」 が好きだ。動物の考えていることなど、実際はよくわからないが、主人を信じてただひたすら待っているように見える。あるいはニッパー君のように、今は亡きご主人の声に聞き入って、往時を懐かしんでいるように見える。
そこに勝手にドラマを感じてしまうのだ。では泣いてみましょう。
(心の声・・・ルルルルル・・・・
こうやって蓄音機の声を聞きながら、まだご主人様がどこかにいるのかな?って思ってたんだろうか。それよりも、亡くなったこと自体、わかってたんだろうか・・・。
これと同じ置物、小さいのがハンズに売ってて衝動買いしそうになったなあ・・・。いやそれはいいんだ今は。
もらったうまいエサや、一緒に散歩したことや、頭なでてもらったこととか、思い出したりしてたんだろうか・・・ルルルルル)
と、待つこと6〜7分。やっとのことで涙がキラリ。年をとると涙もろくなるものですな。
いや、正直申しまして、もっと私は泣くのがうまいと思っていたのだ。割と自由に涙を出せていたような気がしていたのだが、こと取材となると気が入らないのだろうか。「泣いてやろう」という邪念が、涙腺を固く閉ざしてしまっている。
いつでも涙を流せる役者さんをプロとして尊敬いたします。